15年前、私が30歳の時のことです。
とある三重県の女性蔵元さんが、私が店長を務めていたお店にご来店された時のこと。
その方がつくった純米酒に私がお燗をつけることになりました。一升瓶ごと湯煎する、いわゆる「瓶燗(びんかん)」です。
お酒をお出ししてからややあって、彼女がつくった別の純米酒の瓶にもお燗をつけてお出ししました。
すると、その蔵元さんが「お燗をつけた人に会いたい」と言っているというので、私は客席に出ました。
彼女は私の手を握り、
「私が一生懸命につくったお酒を、こんなに美味しくしてくれてありがとう。本当にありがとう」
と、目に涙さえ浮かべおっしゃったのです。
お話をきくと、お燗の温度の適切さだけではなく、一度目と二度目の温度の違いに感動したというのです。
そしてお帰りになる時に「もう一度あの人にお礼を言いたい」と私を呼び、お礼を言ってくれました。
私がどんな気持ちになったか、言うまでもないでしょう。本当に嬉しかったです。
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お客様に感動してほしいから、私はいつでも誠心誠意、お燗をつけます。
でも、そのとき知りました。もうひとつ人に感動を与える方法があることを。
感謝の言葉をプレゼントできる人。
そんな人に 私はなりたい。
Hironobu Shinada (Sommelier)